古代小麦スペルトの種とともに

今年最後のブログのお題は何にしようかと思ったのですが、特に年末に見合ったことを考える間もなく自前の食材に導かれて作ったドイツパン、ラウゲンブロードヒェンのこととともに小麦の話を少ししてみようと思います。

私たちは3〜4種類の小麦の品種を継いでいます。

(品種によるグラデーションが美しい)

元々小麦をそれほど消費するうちではないので、収穫して食材とするのは2年に一度くらいです。

種をつなぐという意味でも毎年種取り分として少量は必ず作付けしています。

特に大切にしているのはスペルト小麦です。

最近は健康食に敏感な方の間ではすっかり定着した古代小麦の一種です。ドイツの修道女でありハーブ療法の母とも言われるヒルデガルドが勧める食品の一つでもあります。品種改良をされずに継がれて来たためアレルギー反応が出にくいとも言われています。私たちはかれこれ10年以上繋いでいるでしょうか。

日本の気候において小麦を育てるのはなかなか難しいとされています。

というのは、多くの品種の小麦収穫は梅雨と重なってしまうからです。

小麦というと農薬やグルテンの問題などが言われますが、一説によれば小麦でアレルギーが出るのはカビのせいだとも言われています。小麦は畑に育っている段階でもカビが出ますし、カラッと晴れた日にしっかり乾いた状態で収穫しないと袋の中でカビたり発酵してしまうこともあるのです。それゆえに無農薬で育てるのはなかなか敬遠されがちでもあります。

梅雨のない北海道の小麦が有名なのはそういう気候的背景もあります。

そしてここ八ヶ岳も幸いカラッとした気候なので少しは育てやすくもあります。それでも多くの品種は梅雨に当たるので日々天気に翻弄され、スズメたちに先をこされない様にハザカケしてカラッとした好天の日を待ったりもします。

(余談ですが小麦の収穫期は鳥たちのパラダイスです。多くの農家が鳥害に頭を抱えます)

しかし、私たちが育てている小麦の中でスペルト小麦だけはほんの少し収穫期が遅い晩生の品種です。梅雨が明けるか明けないかという頃に黄色く熟していきます。そういう意味ではありがたいです。

スペルト小麦は収穫時期だけでなく形状も少し違います。まず背が高いです。『ライ麦畑でつかまえて』という映画がありますが、ライ麦は人が隠れてしまえるくらい背が高いです。上の写真1番右がスペルトです。スペルトも同様に普通の小麦の1.5倍くらいの高さに育ちます。

一般的な小麦は収穫期に脱穀機を通すと籾もはずれ裸麦の状態で出て来ますが、スペルトは硬い籾を被ったまま出でくるのがほとんどです。こうして古代から種を守って来たのでしょうね。

なので、食用にしようとした時にはさらに一手間が必要になります。

脱粰(だっぷ)という作業でお米で言うところの籾ずりです。この機械を通して初めて玄麦となります。

そして製粉するにも麦の芯までしっかり乾いていないと良質な小麦粉にはなりません。天日に当ててしっかり乾かして12月頃まで熟成させて甘みがでてくるのを待ちます。

そしてようやく12月!!製粉する前に再度天日干しします。カラッカラになったところで製粉機にかけます。

私たちは少量の時は家庭用の電動石臼を使います。

小麦もやはり低温石臼挽き^_^

しっかり乾燥していないと石臼の目が詰まり粉が挽けなくなります。

一度にたくさん製粉する時は製粉機を使います。メッシュも自動なので楽ちんです。

自家用で製粉する時は基本的に全粒粉です。メッシュの細かいものを通せば多少はふすまを避けることができますが、完全に精製することはできません。上の写真はふすまビスケット。

以前農協で完全精製してもらったことがありましたが、その時は6割がふすまになってしまって歩留まりの低さに愕然としました。ふすまは鶏の餌にもなりますが、さすがに半分以上は辛いです。

ここまで来ればあとは調理に使うことができます。なんと長い道のりでしょう!ちょうど来年度の小麦の種まきを11月に終えましたが、食べるまでに1年以上かけていることになりますね。


それゆえにその小麦が食卓に上るのはなんとも愛おしい瞬間です。

ドイツパン、スペルト全粒粉100%のラウゲンブロードヒェン。

焼く前にベーグルのように表面をアルカリ処理も含めて重曹を入れたお湯に漬けることでプレッツェル様のカリッと感と中身はギュッと詰まった旨みが感じられます。

うちの鶏ネラの卵と捏ねたフィットチーネ。トマトソースも自家製サンマルッツァーノです。

全粒粉を少し篩にかけてふすまを減らしてパスタマシーンで製麺。もちもちで美味しいです。

カンパーニュも全粒粉です。

スープには丸麦のまんま炊いたものを入れてプチプチ食感を楽しみます。

ナッツとの相性もいいのでざっくりしたカントリークッキーもいいです。

食べた後の満足感と、その割に他の小麦と比べると重くならないのがいいです。香りは特有ですが、調理次第で活かせます。

こうして栽培過程を振り返っていると一年中食べ物のことを考えて生活しているようですね^_^

そんな時に『天空の城ラピュタ』のこの名言を思い出します。

”土に根をおろし、風とともに生きよう。

種とともに冬を越え、鳥とともに春を歌おう”

今年も種と共に長い冬を楽しみ、春に歌うのを心待ちに過ごします。

今年もアートビーングをご愛顧いただきありがとうございました。

来年もますます皆さんと共に豊かさを感じられる一年となりますよう、スタッフ一同自然と共に前進したいと思います。

皆様が明るい年を迎えられますようお祈りいたします。

sameera