八重桜に重ねる春

ソメイヨシノの桜前線も過ぎ去って、あたりには鶯の初鳴きや雉の雄叫びが聞こえ始め、八ヶ岳の木々にも緑が目立つようになってきました。 

カッコウが鳴き出す前、この季節に一際目を奪うのは八重桜です。

いわゆる桜よりも一際ピンク色が濃く、花びらが八重なのも手伝って花付きが大きいためよりゴージャスです。桜前線が過ぎ去った頃に遅れて咲き始めます。

何を隠そう我が家の庭のシンボルツリーは八重桜です。越してきた時にはすでに庭に大きく咲き誇っていて、優に5.60年を超えてここでの暮らしを見守ってきたのではないでしょうか。

毎年ゴールデンウィークに入る頃に花が開き始めます。この日が近くなると待ちきれず毎日蕾の緩み具合をチェックしてしまいます。

今年は夏のような暑い日が数日あったかと思えば、翌日には冷たい雨が降るという気候が続いたのですが、そのさらに翌日の晴れ間に一気に開花を始めました。

そうなると仲間たちにすぐに声をかけます。花より団子さながら、八重桜摘みに興じる面々がつぎつぎやってきます。

八重桜は塩漬けなどにして食べることのできる花です。年に一度この時期にみんな花を摘みます。

その香りが良いのは3分咲きくらいと言われているのでその時期を逃すまいと万障繰り上げてみんなやってきます。

まずこの時期は花の形も美しく加工する塩漬けや梅漬けなど。

友人は早速塩漬けにしたとしらせてくれました。

私はというと、ここ数年はもっぱら梅酢漬けです。塩揉みしてから梅酢に漬けるだけという手軽さと、とにかく色が美しいく、赤梅酢の風味も美味しいからです。

雨の日の薄暗い部屋で撮影したので色が正確ではありませんが、深いマルーンピンクが鮮やかです。

これを使う時に少し干して乾燥させ、

こんなふうに春のカステラのお供に。この時は卒業シーズン後の子供達の集まりがあったのでお祝いのスイーツとして持参。カステラは我が家の鶏たちの卵たっぷりです。甘いカステラがシソの風味と塩味とのハーモニーで一気に華やかさが出てきます。他にサラダに乗せたりお豆腐に乗せたり、お湯に落としてサクラ茶に、もちろんスイーツ各種にも彩りとなります。いつも瓶に詰めて常備しておくと何かと便利です。

そしていよいよ色がのってきた7分咲き。

今度は花びらをいただくために花を摘みます。

この頃になると視界がピンクだらけで夢心地になります。サクラの香りの主成分とも言えるクマリンの香りにはリラックス効果、抗菌や鎮静の効果もあるとのことですし、何せフィトンチッドという香気成分が発せられているのだとか。フィトンチッドを吸い込み血中に溶け込むと脳が反応して興奮などが抑制され精神が安定するのだそうです。桜の木の香りにはリラックス効果があるということなのです。

そりゃ夢心地になるのもいたしかたないですね。

夢心地の中も花びらをちぎります。ガクや雌蕊などが入らないように優しく外していきます。

お砂糖とレモン汁、そこに梅酢も入れて煮詰めていきます。

アーユルヴェーダのお薬にもローズペタルジャムというものがありますが、それの桜版と言っていいでしょうか。八重桜の花びらジャムです。

美しいですよね。お味はわかる方にはわかるキャンディ「小梅ちゃん」です。梅酢のクエン酸と塩味が加わることによってなんとも言えない深く上品な味わい。そして,最後にサクラのクマリンの香りが鼻を抜けていきます。

そして満開も満開、散りゆく直前の花と、少しで始めた葉っぱをいただいて桜酵母を仕込みます。

パン焼きの酵母はもちろんのこと、米麹と醸してアレンジして使ったりもします。

数日でプクプクしてきます。二次加工も楽しみです。

八重桜のの足元を見ると、引き立てるようにさまざまな野草も一緒に春を奏でています。

薄紫のお花はカキドオシ。こちらも食べられるシソ科の野草。たんぽぽの葉っぱと花びらもいただいて、畑の零れ種の冬越しパクチーも加えて

春のヤムウンセンです。華やかで気分が上がります。

春の野草の苦味と少しミント用のフレッシュさが目覚めを誘います。

毎日寝ても覚めても八重桜が視界に入る生活も後わずか。

ただただ全身全霊で咲くこと、それがこんなにも見る人の気持ちを豊かにさせてくれる。本当にその姿には敬意と憧れを持ちます。

五感でフルに八重桜を満喫する春。

あとは散り行く桜と桜吹雪に人生を重ねつつ、葉桜を迎えたいと思います。今年もありがとうございます。

sameera